ワーケーション導入の全体フロー
ワーケーション導入のポイント
実際にワーケーションを導入するにはどうすればよいのでしょうか?最初のステップは、自社でなぜワーケーションを導入すべきか検討することです。具体的には、目的の明確化→合意形成→課題の把握→試行期間の検討と進めていきましょう。
ワーケーションの目的の明確にするには?
ワーケーション導入の目的を考えよう
ワーケーション導入の目的は、次のようにさまざまなものが想定されます。
- 他社との差別化施策のための経営戦略
- 福利厚生の一環
- 企業の社会的責任の一貫として政府の働き方改革に応える
- 社員に喜んでもらえる魅力的な人事制度を取り入れる
これらの細かな目的は、大きく以下の2つに分類することができます。
①従業員エンゲージメントの向上
②仕事の効率化やクオリティの向上
ワーケーションの目的を明確化するために、まずはワーケーションの導入によってどちらの方向性を目指すのかを考えてみることが大切です。
①従業員エンゲージメントの向上
「従業員エンゲージメント」とは、従業員が会社に対して持つ愛着度や信頼度、貢献意欲を意味します。エンゲージメントが高い従業員は、仕事に対してより熱心で、生産性が高く、長期間にわたって会社に貢献する傾向があるとされています。社員の離職率低下、社員の自立性や主体性アップを目指す場合、具体的なワーケーション導入の目的は、この「従業員エンゲージメントの向上」に当てはまると言えるでしょう。
②仕事の効率化やクオリティの向上
ワーケーションを導入することで、プロジェクトの円滑な進行や新商品開発のスピードアップを目指す場合には、「仕事の効率化やクオリティの向上」が具体的な目標に当てはまります。特に自然豊かな場所でのワーケーションでは、リフレッシュや気分転換をしながら仕事に取り組むことができるため、クリエイティブな仕事も活性化するでしょう。
自社が直面している課題や達成したい目標を明確に理解し、それに基づいてワーケーションの具体的な導入目的を設定しましょう。また、目標を設定したら、それがどれだけ達成されたかを確認することが重要です。つまり、目標達成の度合いを測る効果測定を行う必要があります。導入後にはその効果がどの程度あったのかを評価するための方法も考えておくことが大切です。
ワーケーション導入の合意形成
コンセンサス(合意形成)は取れているか?
会社で新しい制度を始める際は、経営層だけでなく管理職や一般社員など関わる全員の間で意見の一致を図ることが大切です。このように、関係者全員の間で意見を一致させるプロセスを「合意形成」または「コンセンサス」と呼びます。皆の意見や懸念を聞き、共通の理解と承認を得ることで、制度導入の成功率を高め、スムーズな実施へとつなげることができます。
人事部が主体となる場合
人事部が主体となってワーケーション制度を導入する際には、推進責任者が中心となり、経営層や関連部門の各部長(総務、経理、広報等など)へ事前に説明し、理解を得ることが重要です。また、ワーケーションの導入における初期段階では、一見直接関係ないように見える部署の長にも事前説明をしておく必要があります。これは、ワーケーション制度が今までにないまったく新しい制度であり、今後どの部署に影響が出るかが事前にわからないケースが多いためです。
人事部が主体でない場合
ワーケーション制度導入の主体が人事部でない場合も、必ず人事部と一緒にタッグを組んで導入推進を行ってください。ワーケーション制度そのものが人事制度と密接に関わってくるからです。人事部を味方につけて、社内全体の合意形成を目指しましょう。
社内の合意形成を得るためには、他社の先行事例をしめすことが効果的です。最近ではワーケーションに関するオンライン・オフラインセミナーも増えています。「Peatix(ピーティックス)」のようなセミナー検索サイトを活用すると良いでしょう。人事部や経営幹部も誘って一緒にセミナーを受講することで、早期合意形成につながるかもしれません。
ワーケーション導入時の課題は?
ワーケーションは賛否両論
ワーケーション制度を導入する企業は増えているとはいえ、その効果についてはまだまだ賛否両論があります。ワーケーションにおける課題としては、大きく次の4つがあります。
- ワーケーションの導入効果
- ワーケーションのコスト
- ワーケーションのセキュリティ
- ワーケーション運用中の事故
ワーケーションを導入するにあたっては、これらの課題についてあらかじめ理解し、解決策を練っておくことが重要です。
課題①ワーケーション導入効果
ワーケーション導入時のもっとも大きな課題となるのが、ワーケーションの導入効果を事前にどのように説明できるのかということです。例えば次のような意見が考えられます。
- 仕事と休暇の線引きが曖昧にならないか?
- ワーケーションできない社員から不満が出るのでは?
- 導入効果はどうやって測るのか?
- 労働時間と休暇の線引きが曖昧になってしまうのでは?
- ワーケーション導入後の効果測定方法は?
課題②ワーケーション導入・実施時のコストの問題
また、ワーケーションの導入・実施のためのコストに対しては、下記のような意見があがることが想定されます。
- 導入時の初期費用はいくらなのか?
- 休暇でのアクティビティ利用費用は誰が負担するのか?
- 遊ぶ時間も含まれているのに往復交通費はどう案分するのか?
- 全額個人負担でも、制度を利用する者はいるのか?
- 初期費用が必要なのか、必要ならどれくらいの費用がかかるのか?
- 往復の交通費負担はどう案分するのか、出張手当はどう取り決めるのか?
課題③ワーケーション実施中のセキュリティ問題
そしてIT企業を中心に、ワーケーション実施中のセキュリティに対して、次のような意見も挙げられています。
- 施設のWi-Fiのセキュリティは大丈夫か?
- 機密情報の入ったPCを持っていくのか?
- リモート会議の内容を他人に聞かれないか?
特に、ワーケーション実施施設がその企業の研修施設や保養施設ではない場合、通信回線のセキュリティは非常に重要です。PCそのものの盗難や使い方、通信上の脅威に対する脆弱性が存在すると、企業のイントラネットに侵入されての情報漏洩の可能性も否定できません。
課題④ワーケーション参加中の事故の扱い
最後に、ワーケーション参加中に発生した事故の扱いについて、次のような課題もあります。
- 往復路の自動車の利用は可とするか?
- 往復時に事故にあった時は労災扱いか?
- 休暇時のアクティビティの事故の扱いは?
都心の企業の場合、車での通勤が禁止されていたり、出張時のレンタカーの利用は事前に許可が必要になったりしている場合もあるでしょう。そのため、ワーケーション導入時にも公共交通機関のみに移動を限定したり、車やバイク移動の際は事前の許可を義務づけたりといったルール作りが必要となります。
自動車やバイク等の利用時に事故に遭った場合にはどう対応すべきでしょうか?例えば4泊5日のワーケーションプランで、初日から3日目の夜までは仕事扱い、4日目の朝から5日目までが休暇で、往復自家用車での利用とします。帰りの道中に事故に遭ってしまい、運転手である社員が2週間の怪我を負ってしまった場合に、労災が適用されるかどうかが問題となるでしょう。
ワーケーション試行期間を検討しよう
制度導入前の試行期間とリスクの軽減
ワーケーションを本格的に導入する前には、試行期間を設けることがおすすめです。試行期間を設けることにより、ワーケーション制度が適切に運用できるかどうか、社員に受け入れられるかどうかを客観的に判断できるからです。特に、ワーケーション導入時の課題であがっていた懸念事項を検証することが重要な作業になります。
ワーケーションの試行期間としてモニターを実施する場合は、以下の例を参考に期間や日数、回数を設計してみてください。
【ABC株式会社 ワーケーションモニター】
部署:新規事業部門
人数:6名
日数:4泊5日
試行期間を設ける際に必要な事前決定項目
- 試行に必要な期間:6ヶ月~1年
- 試行のための1回当たりのワーケーション日数:3泊4日(仕事2日、休暇2日)以上
- 試行期間中のワーケーションの回数:2回~3回程度
モニター実施においては、
- 仕事の生産性が上がるのか下がるのかを知る
- ワーケーションに潜むリスクを早めに察知し、それらを低減させる
ことが大切です。ワーケーションに参加する人はもちろんですが、ワーケーションに参加しない社員への影響リスクについても十分考えましょう。
さて、モニター実施後は参加者にアンケートに回答してもらいましょう。ワーケーションのメリット・デメリットを中心に質問し、できるだけフリーコメントを書いてもらうことがポイントです。予想外の回答によって、新たな視点が得られるかもしれません。
ワーケーション導入検討時のチェックリスト
導入検討時の重要なチェック項目
ここでは、ワーケーションの導入を検討する上でのチェックリストを掲載します。
ワーケーションの導入検討時には、各部門からさまざまな質問が出るでしょう。現時点で考えられる想定Q&Aを列記し、関係部署との間で共有しながら、漏れがないように確認しましょう。ワーケーションの実行プロセスやリスクの細かい種類、解決策等については、後の記事で解説しています。
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